2022/08/10
ROAD IMPRESSION
2022年1月の東京オートサロンで導入が発表された限定車、『アルピーヌA110 S アセンション』。そのステアリングを、A110 Sで2022年全日本ジムカーナ選手権に参戦中の山野哲也選手に委ねた。
impression:Tetsuya YAMANO
text:Daisuke HIRAI
photo:Satoshi KAMIMURA / Keigo YAMAMOTO
乗った瞬間からわかるエンジン特性の進化
2022年1月の東京オートサロンで導入が発表された限定車『アルピーヌA110 S アセンション』。300psへとパワーアップを果たした新型アルピーヌA110 Sをベースに、フロントスプリッター及びリアスポイラーを追加。足元はフックス製18インチ鍛造アロイホイールにセミスリックタイプタイヤを組み合わせ、室内もサベルト製軽量モノコックバケットシートを組み合わせるなどした、これまでで最もスポーティな仕上げとなった1台だ。
今回そんなA110 S アセンションのステアリングを委ねたのは、レーシングドライバーの山野哲也選手。そう、2022年シーズンから全日本ジムカーナ選手権にA110 Sで参戦し、この度、22度目のシリーズチャンピオンを獲得したまさにジムカーナの”レジェンド”だ。
既にマシン開発から参戦まで、A110 Sで相当な走行を重ねており、今、日本で最も奥深くアルピーヌA110を語れる人物と言えるだろう。
カー・マガジン編集部平井(以下C):今回公道で試乗されて、まず印象に残ったことを教えてください。
山野哲也選手(以下Y):一番大きく変わったのはエンジン特性です。全体のマッピングが変わっていると思われます。低回転からアクセルオンに対するツキがよく、出だしから加速がいいのがわかりました。それこそ時速10kmまでの間も違います。
C:乗った瞬間にわかるほどなんですね。
Y:それに加え、高回転に達した時のパワーの出方も違います。5000~6800回転くらいのパンチが凄いんです。一般的にターボはリミッターに近づくとパワーが落ちていくことが多いのですが、A110 Sは高回転になればなるほどパワーが上がっていくんです。
292psから300psとたった8psしか上がっていないにもかかわらず、低回転から高回転までエンジンの特性が変わったのは、限定したエリアでなく、全体のマッピングを見直しているんでしょうね。数値以上に進化しているのがわかるモデルチェンジだと思いました。
C:足まわりはいかがでしたか?
Y:特に大きく変わった印象はありませんが、試乗していて改めて思ったのは、サスペンション剛性が凄すぎる! ということでした。例えば駐車場に入る時の5cmの段差でも、そこにタイヤがのっただけでも”うわ、凄いな”と感じます。緩みがいっさいないんです。どうしたらこんな強靭な足まわりが作れるか教えて欲しいです。
C:確かに以前の取材でタイヤを外して見た足まわりは、恐ろしく頑丈な作りでした。
Y:これはレースでも感じる部分で、ノーマルのA110 Sが最初から持っている体力が強烈に高いということです。そこから想像できるのはアルピーヌのエンジニアリングの凄さ。妥協がないんです。恐らく、クラシックA110の単なるリバイバルでなく、性能ありきのリバイバルだったんでしょうね。
C:デザイナーのアントニー・ヴィランさんは、クラシックA110生産終了から復活までの空白の期間に、そのまま進化していったらどうなるかを模索したと言ってました。エンジニアリングでも同じことが起きていたのかもしれません。
Y:並半端な努力ではできないと思います。それを成し遂げたアルピーヌは凄いですね。ジムカーナの参戦車両としてA110を選んだのは、ここまで自由自在に操ることができるクルマはないと思ったから。それより強心臓のA110 Sが登場して、これはいけると直感しました!
山野哲也選手は冒頭にも記した通り、2022年のシリーズチャンピオンを獲得。しかも手動ではなく電動パーキングブレーキという、サイドターンができないハンディキャップもものともしない、圧倒的な速さを見せつけたわけだ。ジムカーナの”レジェンド”による参戦が、今、アルピーヌの歴史に新たな伝説が誕生したのである。
PROFILE
山野哲也選手
1965年生まれのレーシングドライバー。1992年にシリーズ化された全日本ジムカーナ選手権に初年度から参戦。2021年までに122回の優勝と21回のシリーズチャンピオンを誇る。2022年からはアルピーヌA110 Sで参戦、見事に22回目のシリーズチャンピオンを獲得した。
他にも全日本GT選手権/スーパーGTにおいて3年連続チャンピオンを獲得するなど、幅広いカテゴリーでの活躍でも知られる。ドライビングドクター、ドライビングプロデューサー、モータージャーナリストの肩書きも持つ。