DESIGN

時間に流されない未来のクラシックになるもの

text:Kazuhiro NANYO
photo:Daisuke HIRAI / ALPINE

社内では『AS1』というプロジェクトコード名を与えられたA110のスタイリングをまとめる作業を、チーフデザイナーとして統括したアントニー・ヴィラン氏。往年のA110という強烈な個性を放つスポーツカーを手本にとりつつ、その信奉者たちに”現代のアルピーヌ”を認めさせることは容易ではなかったはずだが、その生成過程を彼はこう語る。

「最初のイメージスケッチは、もうルノー・グループを去っていますが、ブルガリア出身のデイヤン・デンコフというデザイナーがまとめたものが非常によくて。2012年9月にはもう出来ていましたね。これで行こう、とすぐに決まりました」

2012年のコンセプトモデル、ルノー・アルピーヌA110-50。復活への道のりはここから始まった。

ただしイメージを実際のプロダクトという形にする作業は別物で、そこからのアプローチは即、CGとレンダリングとはならなかった。

「ジャン・レデレの子息であるジャン・シャルル・レデレ氏の協力を得て、立ち上がったばかりのアルピーヌのデザインスタジオのデザイナー全員を連れて、彼の手元に遺されているアルピーヌの全モデルを、実物大スケッチさせてもらったんです。レーシングカーやプロトタイプもあれば、A310やA610といったその後の世代もありました。

大きな紙を使って描くことは、アルピーヌらしい輪郭や特徴、全体的な雰囲気を掴むのに大いに役立ちましたね。外装だけでなく、内装デザイナーはA108にかなりインスパイアされていました。2012年11月の、すごく寒い日だったことを覚えています。まさしく『アルピーヌ的なるもののダイレクト注入』をした瞬間でした」

デザインスタジオ全員で歴代モデルを実物大スケッチした際に、こちらのA108は特に内装で参考になったという。

AS1はプロポーションだけ先に決めた上で、その先のモデリングからプロダクト化まで、ずっとエンジニアチームとの協業でデザインとディテールが詰められたという。

「実物大スケッチから約6ヵ月、2013年5月にはほぼ外装は完成していました。もしアルピーヌのベルリネットが過去20年間にも継続され、Mk-2、Mk-3という進化を遂げていたらどうなっていたか? そうやって存在しない線を想像して意識することで、アルピーヌ・ブランドのDNA、過去と未来を繋げるエレメントを炙り出していったんです」

それは軽さ、コンパクトさ、走りのピュアさといった項目だけでなく、豊富なル・マン経験における空力ノウハウは、200km/h以上で効果の高いディフューザーやフルフラットボトムに結実していたであろうなど、具体的なテクニカル面にも及んだ。

「スタイル面で決定的だったのは、外に向かって威張る感じより、攻撃的でなくエレガントであることこそアルピーヌらしい、ということでした。アルピーヌのもたらす純粋なプレジャーとはマスを削り、”light is right”であること。300~400psが当たり前の世界でパワーを誇示することでなく、200psちょっとでも受け入れられるクルマであることです。あとひとついえることは、”未来のクラシック”になるもの、時間の経過に流されないもの、としたかったのです」

もしアルピーヌのベルリネットが継続されていたら……。そう考えた時に出来上がったのがA110のスタイリングだ。

空力という機能面や歴史的遺産からもたらされたプロポーションがあった分、外装をデザインしていく作業では、明確な方向性があったが、むしろ内装が難しかったという。

「往年のA110の雰囲気をそのまま移すと、今日の新車としては快適性に乏しく、スパルタンに過ぎます。サーキット用のクルマと異なる官能的なマシンであることを、軽さとピュアさの中で表現しつつ、快適で洗練されている必要があったのです。

多くの高級スポーツカーは洗練されていますが、やはりスチールボディの上にプラスチックとモケット、ウレタンを重ねた通常通りの内装であることは否めない。だからアルピーヌは思い切って、すべて剥ぎとるところから始めました。元々アルミのボディの上に、アルミと革とカーボンを載せただけ、というミニマルさです」

こうして聞いていると、現代のA110は机の上でただ描かれただけでなく、デザイナーも過去の実車に取材し、ブレインストーミングを重ねた上で、簡素な形や輪郭の中に、実は濃密なタッチを重ねていることが分かる。結果的に、マイナーチェンジの要らないデザインになったのでは? と尋ねると、ヴィラン氏は大真面目な顔に戻ってこう述べた。

「必要ないかもしれませんね。時間性、時代性を感じさせないデザインであること、それこそが目標でしたし、今後も同じA110を継続していくことが、マーケティングやエンジニア、そして工場との共通認識ですから」

PROFILE:ANTONY VILLAIN

アルピーヌA110チーフデザイナー

アントニー・ヴィラン

1998年にカーデザイナーとしてのキャリアをスタート。ルノーではラグナ・クーペ、メガーヌ、メガーヌ・クーペのデザインプロジェクトリーダー、クリオ(日本名ルーテシア)、キャプチャーのデザイン開発などを担当。2012年からはアルピーヌのチーフデザイナーとして、A110のデザインをまとめた。