MECHANISM

内側から探る極上ドライバビリティの源泉

text:Takuo YOSHIDA
photo:Satoshi KAMIMURA

AERO DYNAMICS
空気を整え、ダウンフォースを稼ぐ

車体下でダウンフォースを得るグラウンドエフェクトは、1970年代のF1やスポーツカーレーシングの世界で誕生したもの。これを真似したロードカーは以前から存在していたが、20世紀の技術レベルでは有効なダウンフォースを得ているものは少なかった。

近年のGTレーシングでは、長らくリアエンジンにこだわってきたポルシェがミッドシップ版の911をデビューさせている。その最大の理由が車体下の空気を効果的に引き抜くディフューザーを装着したいからだった。新型アルピーヌA110がミッドシップレイアウトを採用した理由のひとつが、車体下面におけるダウンフォース獲得にあることは明らかだ。

アルピーヌA110の車体下を覗いてみると、アルミ製のアンダーパネルによって車体下を可能な限りフラットにしていることがわかる。エンジンコンパートメント部分からはじまる長いディフューザー部に比較的なだらかなレーキをつけることで適切なダウンフォースを発生させることに成功しているのだ。

ダウンフォースの量は250km/h走行時に275kgと公表されているが、車体前後のスポイラー類によって多少のドラッグを伴いながら発生したダウンフォースではなく車両全体に効いているものなので、ドライビングによって体感することは難しい。だが高性能なアンダーフロアのおかげで余計な空力付加物を追加せず、美しいシルエットが完成していることを忘れてはならないだろう。

ENGINE ROOM
専用パーツに薫る本気度。熱の処理も秀逸

アルピーヌA110のパワーユニットは容易にその姿を拝めるものではない。だがいくつかのボルトを緩めることでアクセスできるエンジンコンパートメントは、想像以上に美しく作り込まれていた。

一般的には『エンジンはメガーヌR.S.から流用』とだけ説明されていることが多い。それはもちろん事実なのだが、インストールに用いられるパーツのほとんどがアルピーヌのAマークが入った専用部品である点はあまり知られていないだろう。

パワーユニットの冷却が難しいというのはミッドシップ車の常識であり、またアルピーヌA110の場合はフラットフロアとターボの存在も冷却しにくさに拍車をかけている。だがA110はCピラー付近から取り込んだフレッシュエアでエンジンルーム内の圧を高めつつ、後端の電動ファンによって積極的に空気を入れ替える設計になっている。

しかもリアガラス直後に配された黒くて控えめなルーバー部分から走行中の負圧を利用して熱気を抜き出すという手法もまた、エアロダイナミクスを知り尽くしたアルピーヌらしい仕事と言えるだろう。

FRONT SECTION
簡潔なフロント、アルミニウムの芸術

アルピーヌA110の足まわりは前後ともダブルウィッシュボーンを採用している。これは理想的な足まわり形式ではあるが、コストが掛かりスペースを多く使う傾向もあり、採用を見送るスポーツカーも少なくない。

シャシーの95%以上がアルミニウムでできているA110なので、足まわりのパーツにも徹底してアルミニウムが用いられている。上下のアームはもちろんだが、ハブキャリアにもアルミパーツが用いられ、鑑賞に足る美しい足まわり構造が完成している。

昨今のプロダクションカーはダンパーの動きで”ストローク感”だけを表現したものも少なくないが、A110の場合は実際にしなやかでストロークのある足まわり構造によってドライバーにわかりやすい穏やかなロードホールディングを実現している。

“ALPINE”の文字が大きく鋳込まれたブレーキローターはパッドと接するローター部分が鋳鉄、ハット部分がアルミで出来たバイマテリアルの製品。ばね下重量の軽減もアルピーヌA110の優れたロードホールディングに貢献しているのである。

REAR SECTION
強度は譲らず軽さを極めたリア

リアサスもダブルウィッシュボーンを採用。草創期のミッドシップ車の中には前後で同じサスペンションアームを採用するモデルもあったが、A110のそれは前後とも専用となっている。

驚かされるのはロワーAアームのシャシー側基部の剛性の上げ方だろう。アルミ押し出し材のリアフレームに沿うように大きなアルミ鋳物のパーツがボルト留めされており、Aアームやトーコントロールアームはこの鋳物部分に組み付けられている。

A110 Sの専用色であるオレンジ色に塗られたブレーキキャリパーはサイドブレーキの機構も含んだブレンボの製品で、アルピーヌのために専用開発された逸品。平たい形状になっているサイレンサーユニットは、ディフューザーの形状を考えてこの形になっている。

センタートンネル内に見える赤い棒状のパーツは赤く塗って絶縁したアルミの角材。これはフロントに搭載したバッテリーとエンジンを結ぶ軽い配線としての役目を果たしている。リアのエンジンまわりのフレームには鉄を使用するライバルもいるが、アルピーヌは徹底してアルミを採用している。