HISTORY

ジャン・レデレの情熱から生まれたスポーツカーのDNA

text:Car MAGAZINE
photo:Renault / Car MAGAZINE

スポーツカーの誕生にはふたつのパターンがある。ひとつは、幅広いラインナップを展開する大メーカーが、自社製品のイメージアップのために生み出すもの。もうひとつは、モータースポーツに魅せられたクルマ好きが自分だけのために、あるいはごく少数の同好の士のためだけに、純粋に、趣味的な情熱の発露として生み出したもの。

フランスのディエップでルノー・ディーラーを営んでいたジャン・レデレ。A110とディエップ工場内にて。

1950年代初頭、フランスのディエップでルノー・ディーラーを営んでいたジャン・レデレが、ルノー4CVをベースに作り上げた”スペシャル”は、まさに後者の典型だったといえよう。彼はそのルノー・ベースの”スペシャル”のステアリングを自ら握り、アルペン・ラリーやミッレミリアといったモータースポーツイベントに精力的に参戦。そこで好成績を収めたジャン・レデレは、そのノウハウを活かしたスポーツカーメーカーとなることを決意する。『アルピーヌ』の名を冠した同社初の市販モデル、A106がデビューしたのは1955年のパリ・サロンであった。

1955年にアルピーヌ初の市販車モデルとなるA106がデビュー。こちらは1958年のレース参戦マシン、A106ミッレミリア。

その出自からしてモータースポーツと密接な関わりを持っていたアルピーヌは、4年後の1959年にはA106の後継モデルA108を、そして1963年には、後にラリー選手権で無敵の活躍を見せる伝説的な名車、A110をデビューさせる。また、1960年代半ば以降のアルピーヌは、純レーシングマシンの分野に於いても大きな足跡を残しており、1978年にはアルピーヌ・ルノーA442Bが念願のル・マン初優勝を果たしている。

ラリー、サーキットのいずれでも活躍したアルピーヌ。1978年にはアルピーヌ・ルノーA442Bがル・マン初優勝を果たした。

こうしてアルピーヌは、戦後のフランスを代表するスポーツカーメーカーとして、押しも押されもせぬ存在となっていった。さらに1970年代以降もA310、V6ターボ、A610と、その系譜を連綿と継いできたアルピーヌ。1995年にはA610が生産終了となり、アルピーヌの名のついたスポーツカーの歴史は一時的な休止期間を迎える。

1970年代以降は、A310、V6ターボなどを生産。こちらのA610は1995年まで生産され、そこでいったん休止期間に入る。

そして、しばしの空白期間を経ての2017年3月。スイスのジュネーブ・ショー会場で、アルピーヌはついに待望のニューモデルをデビューさせたのである。

その名も『アルピーヌA110』。

同社にとって、そして世界中のスポーツカーファンにとって、まさに宝物のような名前を復活させたというその一点だけでも、新生アルピーヌA110がどれほど熱い想いを込めて生み出されたのか、推して知るべしである。

2010年代になるとアルピーヌ復活の機運が高まり、2017年3月のジュネーブ・ショーで、新世代のアルピーヌA110が登場した。